ショートショート(サブスク)

タツノオトシゴのおじさん

ぼくの家の近くには、すぐ海があって、岩の隙間からも深い海が見えるところがある。水の色が、水色や緑色や、黄色になって、光を受けて色とりどりのサカナたちが泳いでいる。

ぼくが、その岩の隙間をのぞくと、タツノオトシゴのおじさんがゆらゆらと泳ぎながら、ギョロッとした目をこっちに向けて挨拶をしてくれる。

おじさんは、ゆらゆらとただよっているようにしか見えないけど、小さなヒレは忙しそうに動いてた。

下の方をタコがちらっとこっちを見て、8本の足をつかって、ふわっとスカートをひろげるようにして通り過ぎる。

小さなサカナの群れが向きを変えながら整列して泳ぐ。

おじさんの尻尾はくるくるっと丸くなって、ト音記号のようだ。

おじさんの唇は丸く突き出していて、今にも口笛を吹きそうだ。

おじさんはいつもだいたい、そこにいる。その岩の隙間が好きなんだ。

イソギンチャクが波から顔を出して、ダンスをする。

フナムシの群れが一斉に散り散りになる。

晴れの日も、雨の日も、雪の日も、ぼくはおじさんに会いに行ける。

ぼくは大人になった。岩の隙間だったところは、コンクリートの護岸になった。

おじさんは、今、何をしているのだろう。


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ばんなりました

今ではあまり使う人はいなくなりましたが、日が暮れて挨拶するときに「ばんなりました。」「ばんなりましたで。」と言います。「こんばんは。」というと、なんだか固苦しい感じがしていたんですね。たぶん、この地方、鳥取の田舎の方のことばだと思います。

「まめなだか。」というのもあります。「お元気ですか。」という意味です。これももうなかなか聞かれません。

ぼくの年代(60代)では、今でも使うことばで「いぬる。」というのがあります。漢字で「去ぬる。」と書きます。「帰る。」の古い表現なんですね。

「だらず。」というのも、なかなか他のことばに置き換えるのが難しく、まだ使われていることばかもしれません。

「ばか。」と言ってしまうと、かなりきつくなります。「あほ。」でもないかな。なんとなく、おかしいという感じで使います。

訛(なま)りというところでは、拗音化(ようおんか)とでも言うんでしょうか。「している」を「しょーる」、「だから」を「だけぇ」というのは、割と今でもよく使われます。18歳で上京して、北海道出身の友人に「なんしょーるだ?」と思わず聞いたら「英語か?肩(ショルダー)?」と聞き返されました。

ことばは、地方地方で伝わり、変化していきます。たまにこうして文字にしてあげたら、ことばも喜ばしぇんかなーと思って、きゃーて(書いて)みましただが。(最後の「だ」「が」は強調する言い切りのことばです)


風と友だち